それでも対応できないことがある
前回の記事で約90%の症例に使用できる抗菌薬をリスト化しました。
ただ、あそこのリストにある抗菌薬がだけで日常診療における感染症診療に対応できるわけではありません。
例えば
- 抗菌薬投与中患者の下痢の原因となっているC.difficile腸炎
- MRSAによる敗血症
などリスト内の抗菌薬では対応ができない感染症も確かに存在します。
今回の記事では、その隙間を埋めるような抗菌薬をリスト化していきたいと思います。
より汎用性の高い運用をするために
前回と同様点滴と内服に分けて記載したいと思います。
何の根拠もない数字ですが、ここまで暗記すると日常診療の97%くらいまでは困らないように思います。
点滴
<ペニシリン系>
ペニシリンG(ペニシリン, PEN) 1200-2400万単位 q4h(持続点滴とする方法もある)
ペントシリン®(ピペラシリン, PIPC) 3-4g q6h
<セフェム系>
パンスポリン®(セフォチアム, CTM) 2g q8h
モダシン®(セフタジジム, CAZ) 2g q8h
セフメタゾン®(セフメタゾール, CMZ) 2g q8h
<リンコマイシン系>
ダラシン®(クリンダマイシン. CLDM) 疾患によって使用量が異なる
<ニトロイミダゾール系>
アネメトロ®(メトロニダゾール, MNZ) 疾患によって使用量が異なる
<グリコペプチド系>
バンコマイシン®(バンコマイシン, VCM) 疾患によって使用量が異なる
タゴシッド®(テイコプラニン, TEIC) 6-12mg/kg q12-24h
<リポペプチド系>
キュビシン®(ダプトマイシン, DAPT) 疾患によって使用量が異なる
<ニューキノロン系>
シプロキサン®(シプロフロキサシン CPFX)200mg 4錠 2×朝夕食後
クラビット®(レボフロキサシン, LVFX) 500mg 1錠 1×朝食後*
アベロックス®(モキシフロキサシン, MFLX)400mg 1錠 1×朝食後*体格の大きい方には750mg/day使用<テトラサイクリン系>
ミノマイシン® (ミノサイクリン, MINO)100mg 2錠 2×朝夕食後(初回のみ200mgでローディング投与)
ビブラマイシン®(ドキシサイクリン, DOXY)100mg 2錠 2×朝夕食後※ローディングとは最初に薬剤の血中濃度を上げるため、初回のみ増量して投与することまたはその投与量のこと。
※両者にほぼ違いはない。ローディングの有無くらい。<サルファメソキサゾールトリメトプリム(ST合剤)*>
バクタ®配合錠 疾患によって使用量が異なる*サルファメソキサゾール400mg, トリメトプリム80mgの量まで覚えているとexcellent!<リンコマイシン系>
ダラシン®(クリンダマイシン, CLDM) 疾患によって使用量が異なる
<ニトロイミダゾール系>
フラジール®(メトロニダゾール, MNZ) 250mg 6錠 3×毎食後*
*C.difficile腸炎に対しての用量
<グリコペプチド系>
バンコマイシン®(バンコマイシン, VCM) 疾患によって使用量が異なる
前回のリストではほぼ抗菌薬の使用方法が一通りしかなかったのに対して、今回は疾患によって異なるものが沢山ありますね。
それだけ難しい治療に入ってきているということです。
もちろん前回の記事とこの記事のリストにない抗菌薬を正しく使わないといけない場面もあります。
例えば、
- rapid growthタイプの抗酸菌による非定型抗酸菌症に対してのイミペネム(メロペネムはだめ)
- ST合剤アレルギーの方へのアトバコンやペンタミジン
ただそういう難しい症例は判断を急がないですし、感染症科の先生にお任せしてよいでしょう。
ここまで記憶すればもう研修医レベルどころか、感染症フェローに足を踏み入れたといっても過言ではないでしょう。
日常診療でわからなくなったら、このリストを思い出してどの薬を使う検討していただけるととてもうれしいです。
リストは覚えたが・・・
これまで2回にわたって感染症診療を行う上で頻回に使用する抗菌薬をリスト化して紹介してきました 。
所謂「アメリカ式」の正しい感染症診療を行う上で、このリストから選ぶことでほぼほぼ間違いない選択と運用ができると自負しております。
でも読者の中にはこう思われた方もいるのではないでしょうか?
最もだと思います。しかし、これは簡単です。
肺炎や腎盂腎炎などの感染症診療ではまず経験的治療(empiric therapy)として比較的多くの細菌に効果のある広域抗菌薬を使用し、原因菌とその薬剤感受性が判明した段階で標的治療(definitive therapy)に変更するという流れになります。
抗菌薬をより狭域でターゲットの絞ったものに変えることを抗菌薬のde-escalationと言います。
definitive therapyに関しては実際に細菌の薬剤感受性が判明した後じゃないと決定出来ませんが、empiric therapyに関しては1対1とまではいわなくても1対3くらいまでで選ぶべき抗菌薬が決まっているのです。
指導医はそれをこれまでの経験でからすぐにempiric therapyとして使用する抗菌薬が分かっているのです。
1対3としたのは、患者さんの状態によって同じような疾患でも選ぶべき抗菌薬が変わってくるからです。
次回以降に代表的な感染症のempiric therapyをまとめたいと思います。
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