感染症診療の考え方

なぜ感染症診療が重要なのか?

現在新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっており、直近の課題として感染症診療が非常に重要視されております。
もちろん新型コロナウイルスは人類にとっての脅威であり、それを駆逐するために重要であることに何の疑問もありません。

しかしコロナ前の世界において、感染症診療における所謂common diseaseというのは細菌感染症でした。
S.pneumoniaeによる市中肺炎や、E.coliによる腎盂腎炎などは研修医が避けて通れない感染症診療の入門疾患と言えます。
また悪性腫瘍の診療を嫌気して原則それらに関わらない診療科(循環器内科、リウマチ科など)を選択することができても、感染症診療から逃れられる診療科は皆無です。

つまり感染症診療の原理原則を理解することは、今後自分が専攻するであろうほとんど全ての診療科で応用が効く思考技術をつけるということになります。

今は情報が拡散され、様々な研修医向けの本がありますので皆さん知っていることも多いと思います。
ただそれは東京の教育病院や一部のブランド病院の話であって、田舎で上級医が聞きなれない抗菌薬を処方している病院もあるでしょう。

東京のブランド病院で働く皆さんも田舎の地域医療を支える病院で働く先生も3000円も出して本を買うのは惜しいなと思われた時、これを読んでまず頭をすっきりさせていただいてから本屋に向かうかどうか決めてもよいと思います。

感染症診療の原則

感染症診療において最も重要なことは

  • 感染臓器の推定

これにつきます。
肺なのか、腎なのか、肝胆道系なのか、血流だけなのか。これだけで起因菌が推定できます。
(参考までに各臓器における感染症の代表的な起因菌を下に挙げておきます。国試終わった直後の先生にとっては常識ですよね。)

その後患者さんの状態を確認し、抗菌薬を決定します。

研修医の先生は感染症診療で最もフォーカスされる部分は抗菌薬の決定と思われるかもしれませんが、それは違います。
むしろそれはサンフォードなどのきちんとした抗菌薬の使い方が記載されている書籍を見るだけでほとんど自分の判断はいりません。
感染症診療の流れとしては

 感染臓器の推定
→起因菌を予測
→サンフォード等を参照しつつ患者さんの状態によって起因菌のカバー範囲と抗菌薬をmodify

これだけです。

これは感染症診療だけに限った話だけではないですが、診断推論においてもっとも大事なことは病歴聴取と身体診察です。
目の前にいる患者さんの何歳で、性別はどちらで、既往症や内服しているお薬にはこのようなものがあって、アレルギーや酒・たばこの状況のデータを集める。
そして主訴を足掛かりにしながら、問診や身体診察を重ねていきます。
(主訴とはその患者さんが最も困っていることです。すべてではないですが、主訴を紐解いて解決の道筋をつけることで多くの症例で患者さんにとって理想的な方向に向かいます。)

これらによって感染臓器が推定し、検査によって診断を確定させたら次は患者さんの状態を確認します。
例えば同じ80歳男性の誤嚥性肺炎であっても

  1. 既往症のほとんどない方
  2. 糖尿病の既往がある方
  3. 過去に喀痰でESBL(Extended spectrum beta lactamase)産生e.coliの検出歴がある方

では選択すべき抗菌薬が変わってもよいと思います。

  1. の方に使う抗菌薬はあまり悩まずサンフォードを見てアンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)セフトリアキソン(CTRX)でよいでしょう。
  2. の方にはP.aeruginosaのカバーのためにピペラシリンタゾバクタム(PIPC/TAZ)を使用しなければいけないかもしれないです。
  3. の方にはESBL産生菌に効果の高いメロペネム(MEPM)セフメタゾール(CMZ)を使用しなければいけないかもしれません。

また患者さんの静的状態やプロファイルだけではなく、動的状態にも注目が必要です。
たとえば③の方でショックバイタルの方と比較的落ち着いている方では使用すべき抗菌薬が変わる可能性があります。

このあたりの思考法に関しては、誰をメンターとしどういう教育を受けたかによっても変わりますので一概に良し悪しと言えません。
医療のアートの部分が多く含まれてくると思います。

しかし原則的に(誤嚥性)肺炎に関してはアンピシリンスルバクタム(ABPC/SBT)セフトリアキソン(CTRX)を使えばよいというのはほぼパターン認識でよいので初学者はまずそこを抑えましょう。

 

感染臓器代表的な起因菌
S.pneumoniae
H.influnezae
M.catarrhalis
C.pneumoniae
M.pneumoniae
L.pneumophila
E.coli
P.mirabilis
K.pneumoniae/oxytoka
(これらの菌を頭文字をとってPEKとまとめることがあります)
肝胆道系腸内細菌科(PEK)
腸球菌(S.faecalis)
嫌気性菌

Take Home Message

  • 感染症診療で最も重要なのは感染臓器の推定
  • 感染臓器毎に抗菌薬はほぼ自動で決まる
  • ただし患者さんの状態によって少し修正が必要
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