グラム染色の重要性
以前書いた記事では臨床で使用すべき抗菌薬をリスト化することで、選択肢を絞りました。
では実際にどのように運用するのでしょうか。
読者の中には指導医の先生からこのように言われて戸惑った方もいるかもしれません。
empiric therapyとは直訳すると経験的治療になります。
指導医の先生は肺炎に対しての
感染臓器として肺を考えており、肺炎を起こす頻度の高い細菌をカバーする抗菌薬としてユナシン®を使用しましょうと言っているのですね。
この辺りは前回の復習も兼ねていますね。
グラム染色~まずはGPCとGNR~
さて、指導医の先生はどのようにempiric therapyで使用する抗菌薬を決めているのでしょうか。
一言で言うと感染臓器で疑わしい起因菌を予測して、それを必要十分にカバーする抗菌薬を既往してチョイスしているのです。
以前の感染症診療の考え方の原則で出てきましたね。
しかし、広域な抗菌薬は将来の耐性菌リスクを考えるとあまり使いたくないこともあります。
また、以前にESBL産生大腸菌による肺炎の既往のある患者さんの場合、どこまでカバーしたらいいのか判断に迷います。
そんな時に使えるのがグラム染色です。
グラム染色の手順に関しては学生時代も含めて散々習ったのでここで逐一説明することはしません。
グラム染色を簡単に上手に行う方法だけ記載しておきます。
①検体固定←しっかり乾燥
②クリスタルバイオレット&ヨウ素で染色←2秒ずつでいい
③アルコールで脱色←しっかりやる、紫が浮いてこなくなるまでやる、2回やってもいい
④サフラニンなどで赤く染める←5秒でいい
以上です。
時間経過まで教えてくれるところはあまりないと思います。
みてお分かりの通り染色よりも脱色にしっかりと時間をかけるときれいなグラム染色ができます。
グラム陽性球菌に関してはさらにブドウの房状のclusterと連鎖状のchainに分けられます。
前者の代表例はStaphylococcus属(黄色・白色ブドウ球菌)、後者の代表例はStreptococcus属(肺炎球菌、連鎖球菌)です。
グラム陰性桿菌に関してはその大きさによって菌種が変わってきますが、
大き目→大腸菌(莢膜なし)、クレブシエラ(莢膜あり)
小さめ→インフルエンザ桿菌、緑膿菌
と覚えておけばいいでしょう。
小さめのグラム陰性桿菌に関しては白血球に対してほんとに小さいので注意してみないと見逃してしまいます。
グラム陰性球菌は下の4種類程度しか臨床上重要ではないので、この表をどこかに貼っていつでも見れるようにしておけば問題ないです。
グラム陽性桿菌はClostridium属やListellia monocytogenesなどありますがグラム染色で重要になることはないです。
たまにキラキラ系の指導医がこれ何?とキラキラしたグラム陽性桿菌について聞いてきますが、結核菌(Mycobacterium tuberclosis)と答えておきましょう。
ただ知ってるか知っていないかのネタなので。
すぐに参照できる表を下記に記載します。
球菌 | 桿菌 | |
グラム陽性 | 黄色ブドウ球菌 連鎖球菌 (肺炎球菌・溶連菌・腸球菌) | 今は覚えなくていい |
グラム陰性 | 今は覚えなくていい (淋菌・クラミドフィラ・髄膜炎菌・モラキセラ) | 腸内細菌族 緑膿菌など |
限界もあるからempiric therapy
しかしグラム染色ができない施設もありますし、グラム染色で菌の形と色が分かったところで薬剤感受性まではわかりません。
グラム染色の限界は
①すぐに臨床応用できる施設は限られる
②施行者の手技や熟練度によって情報に制限が出る(緑膿菌などは最初は注意してみない分かりません)
③検体がうまく取れていない場合がある(喀痰の場合はGeckler分類やMiler Johns分類などで評価されます。Gckler分類では通常G4-5が臨床上有効な喀痰とされます)
④菌の薬剤感受性までは分からない
ということがあげられます。
またそんなこと言わずに早く対応表くださいという先生もいらっしゃると思いますので、通常考えるべき疾患毎のempiric therapyの対応表を皆さんの使い勝手を考えて以下のリンクに記載します。
リンク先をブクマ登録していただければすぐにみられるます。
指導医に見つからないように?してください。笑
Take Home Message
- グラム染色の有効性と限界を知ろう。
- 細菌感染症に対するempiric therapyをいつでも参照できるようにしよう