まず覚えるべき抗菌薬15選

抗菌薬の数が多すぎる

前回の記事で感染症診療の原則について触れました。もう一度復習してみましょう。

 

  • 感染症診療で最も重要なのは感染臓器の推定
  • 感染臓器毎に抗菌薬はほぼ自動で決まる
  • ただし患者さんの状態によって少し修正が必要

 

繰り返しになりますが、感染臓器を推定したら(多少の医療のアートの部分はあるにせよ)抗菌薬はほとんど自動で決まるということでしたね。
そしてその抗菌薬はサンフォードを見て選びましょう、と。

しかし実際にサンフォードの小さい冊子を開いてみると、、、

 

字が小さい上に抗菌薬が多すぎる!!!

 

抗菌薬が自動的に決まるといってもこれでは何が何やらさっぱりわかりません。

しかし、実は頻回に使うべき抗菌薬などせいぜい15種類、多くても30種類程度しかないのです。

まずはこれだけ覚えよう!

僕が日常診療で使用する抗菌薬のうち90%程度は以下のリスト内のものです。
基本的には使う頻度の多いものを入れていますが、診療科の特性により特殊なものはあえて入れてません。
研修医の先生や一般内科・外科・マイナー科の先生が診療を行う上ではこれで十分でしょう。

点滴と内服に分けて記載しており、

商品名(一般名, 英語での略式表記) 腎機能低下のない方への代表的な使い方

の順に記載しております。
(q6hは6時間毎という意味です)

点滴
<ペニシリン系>
ビクシリン®(アンピシリン, ABPC) 2g q6h
ユナシン®(アンピシリンスルバクタム, ABPC/SBT) 2g q6h
ゾシン®(ピペラシリンタゾバクタム, PIPC/TAZ) 3.375g q6h<セフェム系>
セファメジン®(セファゾリン, CEZ) 2g q8h
ロセフィン®(セフトリアキソン, CTRX) 2g q24h *
クラフォラン®(セフォタックス, CTX) 2g q8h
マキシピーム®(セフェピム, CEPM) 2g q8h<カルバペネム系>
メロペン®(メロペネム, MEPM) 1g q8h

<マクロライド系>
ジスロマック®(アジスロマイシン, AZM) 500mg q24h

<ニューキノロン系>
クラビット®(レボフロキサシン, LVFX) 500mg q24h

*セフトリアキソンは肝代謝の為、腎機能による用量調節は不要。
また肝障害がある場合もchild Bまでの肝障害なら用量調節が不要なことが多い。

内服
<ペニシリン系>
サワシリン®(アモキシシリン, AMPC) 250mg 6錠 3×毎食後
オーグメンチン®(アモキシシリンクラブラン酸, AMPC/CVA) 375mg 3錠 3×毎食後<セフェム系>
ケフレックス®(セファレキシン, CEX) 250mg 8錠 4×毎食後
L-ケフレックス®(セファレキシン, CEX) 1000mg 2包 2×朝夕食後
ケフラール®(セファクロル, CCL)250mg 6錠 3×毎食後*<マクロライド系>
ジスロマック®(アジスロマイシン, AZM) 使い方は疾患別に多少異なる

*ケフラール®はケフレックス®の院内採用がある場合は不要。

感染症にあまり自信が持てない先生はは現場でパッと使える知識としてこのリストを参考にしてください。
ここで1つポイントですが、Cockcroft&Gaultの式で計算したCcrに応じた最大容量の抗菌薬を使用するようにしましょう。

たまに感染症に詳しい先生が

 

日本人は体格が小さいから抗菌薬の量が少な目でも効く

 

とおっしゃることもあると思います。

しかし抗菌薬の薬剤感受性試験の結果として表示されるSusceptible, Immediate, Resitant は、サンフォード記載量を使うことが前提です。
投与量を自己判断で変えると効くかどうかわからなくなります。

個人的には少な目でも効くとは思いますがエビデンスはありません。
また何より抗菌薬を使用しても患者さんに改善が乏しい場合、抗菌薬の量が足りないから効かない可能性を考慮しなければならなくなります。

抗菌薬を過量に使用した際に副作用の脳症を起こすという報告がありますが、基本的には腎機能をモニタしたうえで使うのであれば安全に使用可能だと思います。

注意事項

しかし実臨床の場では稀によく

 

経口第3世代セフェム系抗菌薬

 

を処方される先生からご指導をいただくことがあると思います。

そういう先生方から第3世代セフェム系抗菌薬を処方するよう指導を受けた時は、指導にきちんと従い処方するのは仕方がないと思います。

反目して職場の人間関係を壊して自分が不利益をこうむるのはもちろん避けないといけません。
しかし経口第3世代セフェム系抗菌薬はバイオアベイラビリティ(生体吸収率)が低く、50%未満のものがほとんどです。
つまり半分以上が排泄物として捨てられるのです。

参考までにアモキシシリンのバイオアベイラビリティは約90%です。
(豆知識ですが昔はアンピシリンの内服薬があったのですがバイオアベイラビリティが80%とやや低く、それを改善したのがアモキシシリンになります。)

なので自分の判断で抗菌薬を処方する場合、経口第3世代セフェム系抗菌薬はなるべく処方しないようにしましょう。

Take Home Message

頻回に使う抗菌薬をリスト化して覚えておこう
(もしくはすぐ参照できるようにしておこう)
最新情報をチェックしよう!

感染症の最新記事8件